コラム

パワハラを生む「べき思考」との付き合い方

ハラスメント研修を実施すると、やはり身近な話題だからでしょうか。
受講生から色々な質問をお受けします。

今回はそんな質問の中から1つ選び、回答をご紹介したいと思います。

Q べき思考をうまくコントロールしていきたいと考えていますが、コツのようなものはありますか?   自分でも、べき思考が強く出ていると思う時、その場を離れるようにしていますが、変えることができない時などにできる対処法があれば教えていただきたいです。

A「べき思考」とは「こうあるべき」という自分の考えです。
「べき思考」は決して悪いものではありません。要求や目標に向かって進むエネルギーとなったり、責任感や倫理にも大きく影響を及ぼします。「べき思考」が私たちの住む社会を成り立たせているといっても過言ではありません。

ただ、「べき思考」を相手に向けた時、相手の考えと一致しないことがあります。
例えば、「使い終わった道具はすぐに片付けるべき」と自分は思っているが、相手は「使い終わった道具は全部作業が済んでから片付ければよい」と思っていたとしましょう。
自分の考えた通りにしない相手にはイライラが募りますよね。

「べき思考」は自分に「怒り」の感情を発生させ、結果的に自分を苦しめることになります。
また怒りによって不適切なコミュニケーション(パワハラ)を行ってしまう可能性も高まります。
そこで「べき思考」に少し緩みを持たせるコツが必要になるというわけです。

思考のコントロールはまず、自覚なくして始まりません。質問者さんが「コントロールしていきたい」
と考えてくださったのは素晴らしいことだと思います。

その上でコツをご紹介します。
まず、イライラしたときどんな「べき思考」があるのか具体的に考えてみましょう。

・仕事は1回教わったらすぐに覚えるべき
・年上は敬うべき
・時間はきっちり守るべき …
私たちは様々な「べき思考」を持っています。

次にその「べき思考」の強さをランク付けしてみましょう。

Aランク 自分の生命や、組織の根幹を揺るがすほどの絶対的に譲れない重要事項
Bランク 譲りたくないし、相手にはできれば守らせたい事項
Cランク そうなれば言うことはないが、まあ譲れないこともないと思える事項

自分のその「べき」を A:「絶対」か B:「できれば」か C:「ま、いっか」に分けるのです。
イラっとしたとき、その「べき」はどのランクなのか声に出してみましょう。

案外Aは少ないことがわかります。もしCだったら、さっさと手放してしまいます。
自分の気持ちを不快にさせてまで押し通さなければならない「べき」ではなかったのですから。

ではBはどうでしょうか。そもそも「べき思考」は自分の要求です。
「~であって欲しい」という気持ちですから「すぐに片付けるべき」を「すぐに片付けて欲しい」
という言葉に変換してみましょう。

相手も「べき」という考えを押し付けられるよりも「~して欲しい」と依頼された方が気分がよく、
譲ってくれる可能性があります。

もう一つ大切なことがあります。
私たちは「べき思考」の中に「不安」という感情があることにあまり気づいていません。

「べき思考」は自分の中の当然、当たり前、常識事項ですからそれに従わない相手を責めたり怒りがわいてきますが、実は自分の「不安感情」の裏返しでもあるのです。

例えば「すぐに片付けるべき」という「べき思考」の中には自分のどんな「不安」が隠れているのでしょうか。
すぐに片付けなかったため後から時間がなくなって大変だったことがあるから、このままでは同じ状況になってしまうかもしれない…
すぐに片付けなくて道具がどこにあるかわからなくなった人がいたから、このままでは手助けが必要になり自分の仕事が増えるかもしれない…
など過去の体験によって作られた未来への不安が潜んでいるのです。

不安な気持ちが自覚できれば、相手に伝える時「~が不安だから(○○になったらイヤだから)~してくれない?」という表現に変わるはずです。
もしその通りにしてくれなかったら残念な気持ちや悲しくなるかもしれませんが、「べき思考」の時ほど怒りは感じず、不適切なコミュニケーションは減ります。

自分の不安とはいったい何なのか確かめる。不安とぜひ向き合って欲しいと思います。

「私の常識はあなたの非常識」
「自分の考えと一致する人間などこの世に存在しない」

べき思考は自分の欲求であって、相手に押し付けてよいことはありません。
自分のべき思考とは上手に付き合っていきたいですね。

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