ハラスメントを受けた人はメンタル不調になる確率が高いと言われています。
受けた人は自分の弱さや自己否定感情に苦しみ、報復の怖さや無力感から周囲に相談することを躊躇し、悩みを抱え込みます。
それでもどうしようもなくなって信頼できる上司や同僚などに相談をします。
相談を受けた人は話を真剣に受け止め、何とか本人を楽にさせようと声をかけることでしょう。
しかし、相手のためを思ってかけた言葉が実はさらに相手を傷つけていることに気が付かないケースがあります。
「気にしすぎだよ。忘れた方がいいんじゃない」
「たまたま虫の居所が悪かっただけだから、気にしない方がいいよ」
「あなただけにそうしているわけじゃないと思うよ」
(被害の矮小化)
「悪気はなかったと思うよ」
「あなたのためを思って、言いすぎちゃっただけだと思うよ」
「あなたを傷つけるつもりはなかったと思うよ」
(加害者の擁護)
「あの人は元々そういう性格だからさ」
「私はあまり気にしないけどね」
(論点のすり替え)
「あなたの○○の部分がその人は気になったんじゃないかな」
「そのとき、○○って言えばよかったんじゃない?」
「あなたももう少し○○すればよかったね」
(自責の念の誘発)
これらの発言は私がハラスメント被害者のカウンセリングをしている中で「上司などに相談したときに言われてショックだったこと」としてよく語られます。
こうした言葉は傷ついている被害者を助けたい、なんとか状況を改善したい、という思いやりから発せられていると思われます。
被害者の視点を変えさせ、安心させようという意図もあるのでしょう。
しかし、これが2次的な加害=セカンドハラスメントになっていることに気が付いていません。
被害者にとっては行為者に悪意があろうとなかろうと傷ついたことに変わりはなく、こうした発言は自分の苦しみを理解してもらえていない、と感じてしまいます。
逆に、なだめようと配慮したはずの上司などの言葉に触発され、被害者はさらに自分の考えを強固にしてしまう可能性が高まります。
「悪気がないわけがない」
「悪意なくあんなことが言えるわけがない」
「私の事を思っていたらあんな言い方は絶対にしない」
「私を傷つけよう、痛めつける意図があったに違いない」
「『たまたま』で片づけないで欲しい」
「元々そういう性格だったら何をしても許されるんですか?」
「自分にだけ言い方が高圧的で、私の事が嫌いなはずです」
こうした被害者の言葉を私は何度も耳にしています。
ハラスメント相談を受けた人はとにかくまずは聴くことに徹底しましょう。
同調する必要はありませんが2次被害を与えないことが基本的に求められるスタンスです。
組織内の立場や個人の価値観は一旦わきに置き、勇気を出して相談してくれたことへの感謝と敬意を示しつつ、訴えに共感しましょう。
その上で被害者が望む意向に寄り添い、然るべき人への橋渡しをしてもらえたら「思い切って相談してよかった」と被害者が救われるはずです。
「相談してよかった」と思ってもらえる組織づくりには「相談した結果よい方向に物事が進んだ」と被害者が実感できる「実績」が何より大切です。
相談したらセカンドハラスメントを受けた、さらに傷ついた、状況が悪化した、何も変わらなかった、となれば相談する人はいなくなってしまいます。
まずはセカンドハラスメントを起こさず、被害者の話は共感して聴く。
ハラスメント相談員はもちろん、上司や先輩みなさんに意識していただきたいことです。
※弊社ではハラスメント相談の外部窓口として相談対応のみならず、組織のご担当者、相談員などへのコンサルティングや研修も行っています。